巣鴨の加賀藩下屋敷より老猪が逃走し市中を暴走、早稲田にて女太夫に重傷を負わせる
十二月二日・三日頃、どこから紛れ込んだのか巣鴨(現在の東京都豊島区巣鴨周辺)にある加州侯(加賀藩前田家)の下屋敷周辺より1頭の老猪が駆け出しました。大通りを横切り塀を飛び越えて、牛込柵養老(現在の新宿区箪笥町・神楽坂周辺)下の酒井侯別荘へ侵入したところ、藩士が後ろ足を斬りつけたため激怒して猛り狂い、早稲田(現在の新宿区早稲田周辺)の乞丐(非人)の家になだれ込みました。家の中にいた娘(街頭で三味線を弾いて銭を乞う「女太夫」と呼ばれる女性)を牙で突き飛ばして屋外へ投げ飛ばし、その後どこかへ走り去りました。重傷を負った娘は外科医を呼んで太ももの傷口を縫い合わせる手当を受けましたが、激痛に苦しんでおり生死は不明とのことです。
【 史料原文・書き下し文 】
○十二月二日・三日の頃、いづくよりか来りけん、巣鴨なる加州侯下藩邸の辺より老猪一疋駈出し、大路を過り塀墻を越て、牛込柵やらい下酒井侯別荘の地へ入りしを、藩士某、跡足を斬けるより弥猛り狂ひ、早稲田なる乞丐人の家に入、その娘(閭巷に徘徊し、三味線を鳴らして銭を乞ふ、世に女太夫といふものなり)を牙にかけて投出したり。其後何れへ走去りしや知らずと。かの女は外科の医生を請ふて股の疵を縫しめ療養を施しけるが、苦痛甚しく、存亡を知らずと聞り。(武江年表)
出典・参考文献: 武江年表
