【事件・災害 / 社会・奇聞】 文化十二年正月十九日 (西暦 1815-02-27)
干支: 年[乙亥] 月[戊寅] 日[乙巳]
月相: / 節気:

町年寄・樽屋与左衛門の謎の急死と家財没収、詩文に詠まれた巨額遺産の末路

昨年末に謎の急死を遂げた町年寄樽屋与左衛門(樽氏)の葬儀を執り行ったばかりの西福寺(現在の東京都台東区蔵前周辺)の役僧真我が、葬儀の5日後の正月十九日に急死するという奇怪な事態が起こりました。また樽屋の妾であった吉田屋おこんは、事件発生に伴い着物や道具類を隣家の豊前太夫宅や川口おなを等に預け隠そうとしましたが、幕府による手入れが入り、封印された金子700両余りをはじめ妾宅の財産、さらに全体で37万両余におよぶ莫大な資産が幕府に没収(上金)処分となりました。
※この世間の騒動に対し、文人の因是道人は
大樽酒尽小樽愁
鶯遏歌声蝶舞休
三十余年春不絶
始知人世有涼秋
[大樽の酒が尽きて小樽は愁い
鶯は歌声を止め蝶は舞うのを休める
三十余年の春の栄華が絶えなかったが
ここに始めて人世に涼しい秋=厳しい時代の変転=があることを知る]
との漢詩を詠み、五山堂など他の文人・詩人たちもこぞって詩を詠み交わしました。
【 史料原文・書き下し文 】
〔筠補〕十一月二十八日、樽氏、菩提所西福寺へ参詣、役僧真我へ金十五両を附属す。祠堂金の心外に、山の手に居候僧にも金五両頼み遣し、その翌暁に頓滅なり。真我は知己なりしが、次年正月十四日、樽氏葬式済て翌五日に、是も頓滅したる由、奇事といふべし。妾吉田屋おこんは、此こと起りて、衣服・調度、隣家の豊前太夫が許に預け、川口おなをなどにも頼みしが、やがて残らず封印附金子も七百両計、上金となる。其外妾宅の事、くだしければ略す。
此時、因是道人
大樽酒尽小樽愁 鶯遏歌声蝶舞休
三十余年春不絶 始知人世有涼秋
〔大樽酒尽きて小樽愁ふ
鶯は歌声を遏とどめ蝶は舞ひ休やむ
三十余年春絶えざるに
始めて人世に涼秋有るを知る〕
五山堂なども詩あり。忘れしところあればしるさず。
金吾云、樽氏は、町年寄樽屋与左衛門にして、一説に十二月二十九日、浅草別荘に於て自殺すといふ。原因不明なるも、後、財産の処分行はれ、三十七万両余を没収さるとのことなり。(武江年表)
出典・参考文献: 武江年表